海外レースこそ時差ボケ無しで快走!睡眠指導のヒラノマリが解説

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みなさん、こんにちは。

アスリート専門に睡眠指導や睡眠管理をしているスリープトレーナーのヒラノマリです。『睡眠はトレーニングの一環(通称眠トレ)』をモットーに、普段はJリーガーの選手や五輪に出場した選手一人ひとりにあった睡眠法の指導や睡眠環境のコーディネートをしています。

睡眠は、私たちの人生にたくさんのギフトを与えてくれます。そのギフトとは具体的に何か、どうすれば受け取れるのかを『睡眠×ランニング』という切り口で、ご紹介しています。

マラソンシーズンも終盤。春に向けて海外の大会に出かけたり、旅先でRuntripを楽しむランナーの方も多いのではないでしょうか。

海外に行くとなると、気になるのが『時差ボケ』。
時差ボケが原因で本来のパフォーマンスが発揮できないという状況は、誰しもが避けたいですよね。

今回は、海外への大会出場や旅行のときに実践できる、時差ボケの対策をお伝えします。ぜひ、前回記事と合わせて実践してみてくださいね。

時差ボケはなぜ起こる?

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時差ボケとは、数時間以上も時差のある地域間を短時間で移動すると、体内時計と現地時間にズレが生じて心身に不調をきたす状態のことをいいます。通常は、5時間以上の時差がある地域に短時間で移動したときに起こりやすいと言われています。

【時差ボケの症状】
・夜の不眠や中途覚醒(夜中に目覚めてしまう)
・日中の眠気
・疲労感
・頭痛
・食欲不振、便秘  など

症状には個人差が大きく、全く症状がでない人もいれば、1週間程度続く人もいます。

私たちの身体の体内時計は、約24.5時間と言われており、この程度の誤差であれば日常生活内で修正が可能です。しかし、時差が大きくなればなるほど、現地時間と体内時計のリズムの誤差が大きくなり、時差ボケとなってあらわれます。

体内時計は身体のいたるところにある!

では、そもそも体内時計とは一体何なのでしょうか。

体内時計は、医学用語で概日リズムやサーカディアンリズムと言われています。
このサーカディアンリズムは、ただ単にリズムを刻んでいるわけではなく、外界の光や温度、食事、生活習慣などによっても影響されています。
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体内時計の中枢、親時計の役割を果たしているのが、脳の視床下部のいちばん深い脳底にある『視交叉上核』ですが、体内時計は脳内だけでなく、上記の図のようにあらゆる細胞に体内時計の子時計があり、リズムを刻んでいます。お腹が鳴ると『腹時計が鳴った』と表現するのも、胃腸にも体内時計が存在するからなのです。

そして、この体内時計は、私たちの身体の様々な機能と連動しています。例えば、時差ボケで夜に眠れないというのも、通常は入眠する4時間も前から徐々に深部体温(皮膚表面の温度ではなく、脳や内臓などの身体内部の温度)が下がりはじめ、身体が入眠しやすい体制に入っていきますが、時差ボケで体内時計が現地時間に順応していないと、深部体温が下がらず、寝つきが悪くなります。不眠にも繋がっているのです。

時差ボケ対策① 食事の時間

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時差ボケを軽減するためには、何日も前から就寝時間と起床時間を調整して、体内時計を現地時間に合わせていくのが理想。ですが、お仕事をしながらでは、なかなか難しいですよね。

そこで、時差ボケ対策として注目していただきたいのが、腹時計から体内時計を調整する方法です。既出ですが、『腹時計』と言われるように胃腸には第2の体内時計があります。食事を少し工夫するだけで、時差ボケに備えることができるのです。

一つ目のポイントは、食事のタイミング。
出発当日は、旅先の現地時間に合わせて食事を摂ると、体内時計を合わせやすくなります。もし、機内食が到着地の時間ではなく出国地の時間に合わせて出されるのであれば、スルーした方がベターです。

また、最近の研究では、空腹の時間が長いと現地時間に体内時計を合わせやすくなるという報告もあります。ハーバード大学メディカルスクールのクリフォード・サパー博士の研究で、「約16時間の絶食期間を設ければ、新しい体内時計を動かすのには十分」と発表されています。

通常は、脳内にある体内時計の親時計が優先して働いていますが、あえて食に飢えた状態にすることで第2の体内時計である腹時計が優先され、時差ボケを解消することができます。機内食を我慢して絶食してから、現地についてすぐ朝食を食べることで腹時計が優先され、体内時計をリセットすることができるというわけです。

時差ボケ対策② 機内食で食べるべきは肉より魚?!

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そして2つ目のポイント。時差ボケを軽減するために、体内時計を調整する食べ物を選ぶこと。
体内時計の調整で一役買ってくれるのが、血糖値を下げる働きを持つ『インスリン』と呼ばれるホルモンです。インスリンの分泌を促してくれる食べ物が体内時計を動かし、時差ボケを軽減してくれます。

それは、炭水化物の中でもお米や小麦、とうもろこしなどの高GI値の穀類の炭水化物です。ダイエットには低GI値の食べ物が良いという認識が強いですね。でも、時差ボケの予防をメインに考えた場合は、高GI値の方がインシュリンの分泌を多くし、体内時計の針を動かす効果が高いのです。

また、機内食で肉か魚か選ぶ場面があるかと思います。その時は、ぜひ “魚” を選びましょう!
実は、魚油の中に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)はインスリンの分泌を助けるホルモンを増やしてくれます。

マウスに魚油を含んだ餌を与えると、なんと4~7時間、体内時計がズレるという結果が報告されており、効果が大きく、即効性があることがわかっています。
魚の中でも、マグロ(ツナ)の脂が一番効果があり、ツナ缶などで手軽に食べられるのも嬉しいポイントです。

時差ボケ対策③ 現地についたら、光のメリハリがある生活を意識!

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食事で第2の体内時計を調整し、現地について、まずやっていただきたいのが光をたっぷり浴びること。
当たり前のように思えることですが、目から光が入ると、脳の中にある体内時計の親時計である『視交叉上核』に伝わり、体内時計がリセットされます。体温が上昇して、身体に『活動モード』のスイッチを入れる効果があります。

リゾート地では、ついつい長時間サングラスをかけがちですが、体内時計をリセットし、時差ボケを軽減するためには、到着後しばらく、サングラスを着けずに過ごした方が日中活動しやすくなります。

また、私たちの身体は、朝の光を浴びて14~16時間後にメラトニン(眠気のホルモン)を分泌するしくみになっているので、午前中に光をしっかり浴びておくと時差ボケに左右されず、ぐっすり眠るための準備ができます。たくさんのメリットがありますね。

旅行に行かなくても、時差ボケになることもあります。週末に寝だめをするような生活をしていると、平日と休日の就寝・起床リズムのズレが生じて体内時計が乱れてしまいます。このような時差ボケのことを『ソーシャル・ジェットラグ』と呼びます。休日の寝だめにも、体内時計が大きく関係しており、時差ボケと同じメカニズムです。

時差ボケに影響されず、ランでもお仕事でも、皆さんが最大のパフォーマンスが発揮できますように!

≪参考文献≫
Differential Rescue of Light- and Food-Entrainable Circadian Rhythms. Science 23 May 2008:Vol. 320, Issue 5879, pp. 1074-1077
柴田 重信, 古谷 彰子日本薬理学雑誌(0015-5691)151巻1号 Page34-40(2018.01)
睡眠学入門ハンドブック 日本睡眠教育機構

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