プロ山岳ランナー・上田瑠偉選手、夏季の不調と秋以降の好成績ーー 2025年下半期を振り返る
Dec 31, 2025 / COLUMN
Dec 31, 2025 Updated

プロ山岳ランナーとして活躍する上田瑠偉選手。世界各地で華々しい成績を収めるなか、2025年の下半期シーズンを終えた今の心境を伺いました。インタビュワーは自身もトレイルランナーとしてさまざまなレースに出場し、UTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)シリーズにも出場したスポーツMC・岡田拓海さんです。
「気持ちよくないダウンヒル、滑落でした(笑)」

ーー2025年下半期を振り返って、どのようなシーズンでしたか。
上田瑠偉(以下、上田): 本当に悔いの残るシーズンでしたね。下半期は全部で6レース走ったんですが、とくに狙っていたUTMBシリーズのOCC、そして世界選手権で結果が出せなかった。シーズンを通してあまり良くなかったというのが正直なところです。
ーーUTMBのOCCでは何があったのでしょうか。
上田:OCCは4年ぶりの出場で、UTMBの覇者であるジム・ウォームズリー選手も参戦するなか、序盤は先頭集団で走っていました。ただ悪天候でコースが55kmから60kmに延長されて、急遽設置されたエイドステーションを見つけられなかったんです。
UTMBは通常、すべてのエイドステーションにテントがあって、必ずテントの中を通るようにコースが設定されています。ただ今回は急ごしらえのエイドステーションだったためテントが設営されておらず、町の中にエイドステーションがポツンとあるような状況でした。僕は最初から持っていた水分がそこのエイドでちょうど空になるよう計算をしていたため、次のエイドステーションまで水がない状態で走らなくてはならず……結果的に完走はできず、途中でリタイアすることになりました。
ーージム選手はじめ世界のトップアスリートと走ってみて、いかがでしたか。
上田:走力の部分に関しては負けていないという実感はありました。ただペースが最後まで持つかどうかは自信がありません。先頭集団から離れた後は上位10人までに生き残れるかどうかという感覚でしたね。

ーー9月の世界選手権では46位という結果でした。
上田:世界選手権はスペインで開催された全長44.5km、獲得標高が3700m程のレースでした。序盤を抑えながら20km過ぎで8〜10番手につけていて、ここから上げていこうというタイミングで、競技人生で初めて内臓トラブルに見舞われたんです。
普通の差し込み(腹痛)ではなくて、歩くと平気な一方で走ると衝撃で内臓が差すような感じで。普通なら10~20分休めば治るものが、2時間くらい痛みが続きました。足は元気だし頑張りたいけれど、走ると痛くて走れない……。最後のダウンヒルに入るまで痛みがずっと続いて、ズルズルと順位を下げていきました。
ーー原因として考えられることは。
上田:いくつか考えられます。1つは食べ過ぎ。欧米の補給戦略はどれだけ炭水化物を摂取できるかという考え方が主流であり、自分も真似して現地入りしてから食事量を増やしたんです。消化量の増加による胃疲れがあったのかなと思います。
2つ目はレース中のジェルとの相性。そして3つ目が、レース序盤5キロ地点で蜂に刺されたこと。
ーー蜂に刺されたんですか。
上田:スタートして5km地点、まだ選手が大勢の集団で走っているときに刺されました。最初は足にチクッと刺され、そのあと頭にも刺されて。ほかの選手も刺されていて、スイスのトップ選手もハチによるアレルギーでリタイアするほどのレベルでした。レース中に汗をかいて体内の水分が薄まり、より毒が強くなった可能性も否定できません。
ーー世界選手権後の心境はいかがでしたか。
上田:本当に落ち込みましたね。世界選手権から帰ってきてしばらく落ち込み、秋口以降のレースも気が乗らず出場を迷うといった感じでした。富士登山競走の優勝からの落差が激しくて、ジェットコースターのような気分でしたね。気持ちよくないダウンヒル、滑落でした(笑)。
世界大会で連続入賞 好成績を収めた秋以降のレース

ーー秋以降、調子を取り戻していきました。
上田:10月の志賀高原エクストリームトレイルでは、テーマを持って臨みました。世界選手権でうまくいかなかったことの検証です。補給食の内容は世界選手権のものと同じにしつつ、レース前の食事を増やさないようにするとか。また11月に中国のレースを控えていたので、ペース配分やヘッドランプなどのチェックもしました。

ーー11月に中国で開催されたTsaigu Trail(チャイグトレイル)では3位入賞を果たしました。
上田:コースの全長は105kmで、獲得標高6600mという結構ハードなレースだったんですが、記念大会ということで賞金が良くて(笑)。3位で60万円程いただきました。60km地点まで1位で走っていて、最終的には3位でした。ただ世界のトップアスリート、UTMBで入賞したような中国のトップ選手がこぞって参加しているなかでの3位だったので上出来だと思います。

ーー12月のUTMBシリーズ・チェンマイ大会では2位でした。
上田:今年は結果をあまり狙っていなかったんです。11月に100km程のレースを走った後は2週間半オフを取って、平日は一切走らず、週末だけゲストで呼ばれた大会を走っていました。
去年優勝しているし、オフ明けなので10位に入れば来年のOCCの権利がもらえるということで、そこだけ狙っていたんですが2位になってしまいました(笑)。
「応援してくれている人がいるなら、やはり世界一に返り咲きたい」

ーー全力で狙っていないレースで結果が出るという不思議なシーズンでしたね。
上田:もうちょっと早く、いろいろ気づけたらよかったなと思います。8・9月に失敗したレースで補給戦略や食生活を見直した結果、秋以降の成績は良かったので。夏季の失敗から学んだ気付きを春先に得ていたら……という悔しさはありますね。
ーー10年以上のキャリアでも新しい発見があるんですね。
上田:10年以上トレイルランニングをやっているのに、まだ補給で失敗するのかと思いました(笑)。それぐらいトレイルランニングは奥が深いということなのかな。
ーー2026年の目標を教えてください。
上田:以前は100マイルに挑戦すると言っていたんですが、考えを改めました。来年は100マイルを走りません。
世界選手権を終えてから本当に落ち込んで、自分が1番取りたいタイトル、今やりたいことは何なのかを考えたんです。もちろん100マイルは挑戦したいし、UTMBにも出たい。ただ、そこで明確に何を取りたいのかが浮かんでこなくて。漠然と挑戦するだけであれば、もったいないなと思いました。
ーー世界選手権での経験が大きかったんですね。
上田:現地でスペインのこどもたちが僕の名前を呼んでくれるんですよ、ゼッケン番号ではなく。それだけ世界的にも応援してくれている人がいるなら、やはり世界一に返り咲きたい。2年後ないし4年後の世界選手権で金メダルを取ることを優先すると、ロングのカテゴリーが80km程なので、100マイルまでやらなくてもいいかなと。
来年の1番大きな大会はOCC、UTMBになると思います。他にも世界選手権を見据えて、40kmか80kmかどちらで戦っていくかを見定める……そんなシーズンとして、それぞれの世界大会に挑戦していきたいと思います。

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