プロ山岳ランナー・上田瑠偉選手が富士登山競走を振り返る!初優勝に向けた取り組み、今後の目標とは
Oct 09, 2025 / COLUMN
Oct 09, 2025 Updated
2025年7月25日(金)、第78回富士登山競走が行われ、プロ山岳ランナーの上田瑠偉選手が初優勝しました。今回は上田選手にレースの模様を振り返ってもらうとともに、今年の上半期の最大目標である富士登山競走に挑むまでの取り組み、そして2025年のこれからの目標を語ってくれました。
大会前に体調不良も、3度目の挑戦で初優勝
今年で78回目を迎える日本でも歴史の長いトレイルランニングレース、富士登山競走。上田選手が3回目の挑戦で手にした悲願の初優勝を以下のように振り返ります。
「なかなか勝てないなかで、ようやく勝てたなという感じです。78回という歴史ある大会で、しかも日本を象徴する富士山に向かって進んでいくレース。本当に勝ちたいと思っていたのでホッとしています」
上田選手のゴールタイムは大会歴代6位の2時間36分43秒。終わってみれば、2位に7分差をつけての優勝でしたが、その内容を振り返ると想像以上に厳しいレースでした。
「大会記録(2時間27分41秒、第64回大会の宮原徹選手)の更新を狙っていたので、満足はしていません。(6位に終わった)昨年の方が前半から突っ込んで入って、周りをワクワクさせられるようなペースだったと思います。実は7月上旬に体調を崩してしまって……。それまで積み重ねてきた練習がリセットされてしまった感覚がありました。このレースでは序盤のロードから飛ばすことが多いですが、今回は最初から結構きつくて、体が動かなかったです」
序盤は昨年3位の板垣辰矢選手が先頭を走り、上田選手は昨年優勝の近江竜之介選手と2位争いをする展開。そこから上り基調になってペースを上げていき、コースとなっている富士山吉田口登山道の中腹にある「馬返し」地点を過ぎて、板垣選手を捕えた上田選手。それでも「近江選手がなかなか離れてくれなくて、今年も負けるのかと考えていました」と振り返ります。
それでも「タイムを追い求めるなか、想定よりも各地点のラップは遅いし、体もきつかったのでタイムは無理だろうと勝つことに徹した」と振り返る上田選手。「決して良いパフォーマンスではなかった」と振り返るなか、見事トップで富士山山頂にあるゴールまで駆け抜けました。
上田選手が勝つために選んだシューズ、ヘルメット
昨年はアシックス『FUJISPEED』を履いてレースに挑んだ上田選手。今回、上田選手が着用したのはトレランシューズではなく、アディダスのロードランニングシューズ『ADIZERO TAKUMI SEN 10』でした。その背景には、昨年まで創価大学で学生駅伝で活躍していた吉田響選手(サンベルクス所属、当日はコンディション不良により欠場)が参戦する予定だったこともあったと振り返ります。
「今年は吉田響選手が大会に参加表明をしていたので、序盤のロードでなるべく離されたくないという考えがあって、ロードシューズを選びました。実際に吉田選手が出ていたら、5合目までに5、6分差はつけられる想定もしていました。このレースは上りが多く下りの箇所が少ないので、トレランシューズの強みであるグリップはあまりいらないだろうと思いました。実際にロードシューズを選ぶ選手の多いのが特徴です」
さらに上田選手は今回、大会参加選手に着用が義務付けられているヘルメットも特注で用意。「大会側でも貸し出しはありますが、昨年は試走した時に強風でキャップが飛ばされてしまって……。当日はインナーをマジックテープで止めたのですが、最初のロードを3:00/kmくらいで走ると不快感がありました。だから今回はフィット感を重視して、ヘルメットも準備しました」
大会2日前の最終調整の刺激入れでも、実際に当日を想定してヘルメットを着用して行ったという上田選手。勝利に周到な準備を行っていたことが分かります。
富士登山競走での優勝から逆算した2025年上半期の取り組み
2025年上半期の最大目標に「富士登山競走優勝」を掲げていた上田選手。その目標に向けて、春先から出場するレースを組み立ててきたことを明かします。
「まずは平地の走力を上げたいと思って、平坦での練習をメインにしてきました。3月には立川シティハーフに出ました。その後、トレイルシーズンでは4月のKOBE TRAIL(21.3km・2109ⅿD+)や、5月のUEDA SKYRACE(26km・3050mD+)など、アップダウンが激しいレースを選んで出場しました。6、7月はバーティカルレース(山岳レース)に出て、準備をしてきた感じです」
このほか3月末に開催された「HASETSUNE 30K」では2時間51分50秒の大会新で優勝。5月には札幌・大倉山ジャンプ競技場で開催された「Red Bull 400」にも参加。最高斜度37度の400mを一気に駆け上がるレースは1回走るだけでも過酷と言われるなか、1日に4度走破。標高差約3000mの富士登山競走に向けたトレーニングをレースを使いながら行ったことが、今回の優勝に繋がりました。
2025年後半は海外遠征メイン、来年は100マイル挑戦も視野に
2025年前半は富士登山競走を目標として見据え、海外遠征を控えてきた上田選手。ここからは積極的に海外レースへの転戦プランを立てています。
「8月にUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)のOCCに出て、そのままヨーロッパに滞在する予定です。そこでRedBull最古のイベントであるDolomitenmann(マウンテンランニング、パラグライディングワイルドウォーター、マウンテンバイク、カヤッキングで構成されるリレー)に、RedBullチームのトレランパート担当として出場します。その後、9月にWorld Mountain & Trail Running Championships 2025のショートトレイル(44.5㎞)に出る予定です」
その後は、昨年も出場した11月のTSAIGU TRAIL(中国)の100Kに出場を予定。2026年に100マイルレース挑戦の意向を明かしました。
「来年は100マイルに挑戦したいと思っているので、長い距離を走っておきたいと思っています。今年は富士登山に向けて20Kくらいのレースしか出ていなかったので、距離に関しては不安はありますが、アップダウンに関してはトレーニングを積んでいるので大丈夫だと思います」
富士登山競走優勝につなげたように、目標レースに向けて準備をしていくスタイルの上田選手。
「トレランはマラソン選手より、年間で走っている距離は多い。レースを練習の一環としてやっていく感じで、1つひとつしっかり積み重ねていくという感じですね」
これからも国内、そして世界を舞台に戦っていく上田選手。100マイルという未知の距離への挑戦を視野に、1つひとつ階段を駆け上がっていきます。そんな上田選手の活躍にこれからも注目です。
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