バギーランで日本を縦断(3500㎞)の香港人プロランナー

「バギーランで日本を縦断(3500㎞)の香港人プロランナー」の画像

日本縦断3500㎞に挑戦しているランナーがいる。
香港のWong Ho Fai(黄浩輝)さんだ(以下、ファイさん)。

昨年11月にプロランナーになったファイさんは、同12月に台湾1周1400㎞を1カ月で走破。次なる目標を日本縦断に設定し、今年8月15日に日本の最北端・稚内を出発した。スタートから36日目の9月21日、全行程の約半分を走り終えたファイさんに、日数をかけて長い距離を走るようになったきっかけ、道中での楽しみや苦労について聞いた。

レースで競うよりも、ゆっくり走って自然と触れ合いたい

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身長174㎝体重70㎏の締まった体つきに、日に焼けた肌。何よりも、これまで何万㎞と走ってきたその脚がオーラを発しているのだろう。行き交う人が次々に振り返り、中には「スマホで撮っていいですか?」と尋ねる人が。ファイさんがランで日本縦断に挑戦していると知って、感嘆の声を上げる人もいる。

意外にもラン歴はさほど長くない。もともと、クライミングやカヤックといった自然を相手にするスポーツを趣味としていたが、走り始めたのは8年前。28歳の時だ。

「当時、家族のこととか人間関係、そして経済的なことなど、いろいろな悩みを抱えていまして……。そうしたことから一時的に逃避できるならと、ランニングを始めたのです」

自分と向き合いながら1人で走るランニングは彼の内面に変化をもたらす。「メンタルが強くなったと思います。いろいろな現実を受け入れられるようになったので」。続けて、こんな話をしてくれた。

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「今回の日本縦断中、悪天候に見舞われたことがありました。以前の私なら、そうした中でも無理して1人で走ったと思いますが、いろいろな人に助けてもらいました。1人で頑張ることも大事ですが、1人ではできないことがたくさんあると、謙虚に考えられるようになったからでしょう」

“現実逃避”のために始めたランニングだったが、ファイさんは走り始めると、瞬く間に走行距離を伸ばしていく。アスリートしての素養もあったのだろう。大会も、すぐにフルでは物足りなくなり、ウルトラのレースに出るように。台湾1周にチャレンジする前は、毎年10回ほど世界各地のウルトラマラソンの大会に出場していたという。2017年には、ハワイ島西部の地域であるコナを1周するイベントに参加。約500㎞を完走した。このことが台湾1周、そして日本縦断に挑む大きなきっかけになった。

「自分には長い距離を走れる力があると、手応えを感じました。ならば、もっと長い距離をと」

長い距離に挑戦したい理由は、他にもあった。

「ウルトラマラソンの大会はレースなので、どうしてもタイムを競うところがあります。でも、それでは自分としっかり向き合うこともできないし、自然に触れ合うこともできない。それに、みんなができないことにチャレンジしたいという思いがありました」

日本のラン友を心の支えに、三輪バギーとともに走る

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ところで、なぜ台湾1周を果たした後に日本を縦断しようと考えたのだろう。実はファイさんには『5年計画』と銘打った、毎年チャレンジする距離を伸ばしていくプランがある。最終年にはヨーロッパ1周という目標を持っているという。

「1年目の台湾が1400㎞だったので、2年目はその3倍ほどの距離になる日本縦断にしようと思ったのです」

日本の文化にも興味があったようだ。

「30歳を過ぎた頃から、日本のことを学ぶようになりまして。日本人の礼儀正しさ、きちんとしたところ、1つのことに邁進する姿勢……、そういったところに惹かれました。それと、日本の食べ物にも関心がありました」

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今回の日本縦断にあたり、“相棒”になっているのが、『三輪バギー』だ。台湾1周の時は、車で同行してくれた友人が荷物を運んでくれた。だが、日本でそれは叶わず、背負って走るには荷物が多過ぎた。そこで『三輪バギー』に必要なものを乗せて、“バギーラン”で挑むことにしたのだという。

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海外では“バギーラン”で、超長距離を走るランナーは少なくないそうだが、かなり負荷がかかるようで「押しながら走るのはなかなか大変」と笑いながらこぼす。

心の支えになっているのは、日本のラン友だ。「日本各地にいるラン友と会えるのも、今回の日本縦断の大きな楽しみ」。

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「バギーランで日本を縦断(3500㎞)の香港人プロランナー」の画像もともと、日本に6人のラン友がいた。そのラン友がラン仲間を紹介してくれ、ラン友の輪が大きく広がった。「北海道のあるラン友は、九州のラン友を紹介してくれましたね。その人とは現地で会うことになっています」。ラン友宅に泊まらせてもらったことも、これまで何度かあったという。

ラン友を大事にしているファイさんは、「会いたい」という連絡があれば、その日走るコースをラン友の都合に合わせる。

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「ラン友からの連絡も含め、いろいろなことに柔軟に対応したいと思っています。東京までは、北海道⇒青森⇒秋田⇒福島⇒新潟⇒長野⇒埼玉の順で来ましたが、前もって綿密にルートを決めることはしませんでした」

「バギーランで日本を縦断(3500㎞)の香港人プロランナー」の画像日本のラン友の中でも、特に親しい間柄にあるのが、サイクリストで100マイルレースに30回出場した経験を持つ浜井高洋さんだ。取材時、ファイさんに会いに来てくれた浜井さんは、香港と日本を行き来する商社マン。今回の日本縦断チャレンジを遠隔サポートしてくれているという。

その日走った行程を記録・管理するために、アスリート向けのソーシャルネットワークである『Strava』を活用している。浜井さんをはじめ、ラン友を含む友人たちとはこの『Strava』を通じて情報を共有しているそうだ。

福島では、名物の喜多方ラーメンに舌鼓を打つ

「バギーランで日本を縦断(3500㎞)の香港人プロランナー」の画像スタートしてから東京に入るまでの間、楽しいこともあれば、もちろん、辛いこともあった。

「楽しかったのは、このチャレンジを通じて何人もの人との出会いがあったことですね。特に長野では信濃川を望みながら、出会った人たちととてもいい時間を過ごせました」

素晴らしい景色を目に焼き付けた。特に印象に残っているのが、磐梯朝日国立公園(福島、山形、新潟の3県にまたがる国立公園)だという。

行きたかったが、行けないところもあった。「長野では安曇野に行きたかったんです。景色が素晴らしいと聞いていたので、それが心残りですね」

日本の食文化も堪能した。何が一番おいしかったか聞くと、「喜多方ラーメン」と即答。どうやら醤油味のラーメンが好みのようだ。また、初めて食べた味噌おでんは疲れを癒してくれたとか。

辛かったのは、マップで確認して走れると想定していたところが走れなかったこと。

「道路はあったんですが、車しか通行できないところで……。遠回りを余儀なくされ、12時間で走るつもりが17時間もかかってしまいました」

その時は涙ものだったに違いないが、話す姿はどこか楽しそう。心から日本縦断を楽しんでいるのだろう。とはいえ、愛用しているSALMING(サルミング)のシューズはすでに3足目。楽しさだけで日本縦断はできないことを履きつぶした2足が物語る。

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インタビューの最後に、“後半戦”に向けての抱負を語ってもらった。

「これからも、どんなことも楽しみたいですね。東京までは、どちらかというと自然が多いところを走ってきましたが、後半は名古屋、京都、大阪と賑やかな街を走るので、それも楽しみにしています」

取材中、悲壮感など微塵も見せず、絶やさぬ笑顔で対応してくれたファイさん。これからもどこまでも、楽しむことを忘れずに、走行距離を積み上げていくだろう。

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日本に3枚しかない “TRANS JAPAN” Tシャツをプレゼント

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ファイさんがデザインを手がけた今回の日本縦断のためのウェア “TRANS JAPAN” Tシャツを抽選で1名にプレゼント。こちらのフォーマットよりご応募ください。

“TRANS JAPAN” Tシャツを着て、ファイさんの熱き挑戦を応援しよう!

(写真 吉田一之)

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