全長170km以上、獲得標高9,900m……スポーツMC・岡田拓海さんが走破した過酷なトレランレース『UTMB』を振り返る
Oct 23, 2024 / COLUMN
Oct 23, 2024 Updated
フランスの東南部にある『シャモニー=モン=ブラン』を舞台に、毎年8月末に開催される『UTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)』。2024年にスポーツMC・岡田拓海さんが出走しました。
全長170km以上、獲得標高9,900mの過酷なレースに挑んだ岡田さん。出場を決めたきっかけ、大会を終えた今の心情など、話を聞きました。
「こんな世界があるんだ、いつか行ってみたいな」UTMBへの憧れ
ーー『UTMB』の完走、おめでとうございます! まずはUTMBに挑戦しようと思ったきっかけを教えてください。
岡田:僕がトレラン(トレイルランニング)を始めてから今年で13年目になります。トレランを続けるなかで頻繁にUTMBのことを耳にしており「こんな世界があるんだ、いつか行ってみたいな」といった憧れを10年ほど抱いていました。UTMBに挑戦するのは遠い未来だと思っていましたが、実際にUTMBを目指そうと決めたのは約2年前でした。
UTMBに出場するには、世界中で開催されているUTMB系列の大会を完走するともらえる『ランニングストーン』をゲットし、そのあとの抽選で当選しなければなりません。そんななか2年前にタイで開催されたUTMB系列の大会を完走し、ランニングストーンをゲットすることができてUTMBの挑戦を意識しはじめました。そして2024年のレースに当選することができ、実際に出場してきました。
ーー仕事などで忙しいなか、170km規模のレースに出場するとなるとトレーニングも大変だと感じます。
岡田:実際、トレーニングはあまりできていなかったんです。本当はもっと練習したいですけど(笑)。7、8月には山でのトレーニングを行っていましたね。土・日曜日に仕事が入ることが多いので、平日の1日を利用して山へ行くことが多かったです。7月は1ヵ月で300km以上は走りましたし、山の中で10時間ほど動き続けるといったトレーニングなども行っていました。
「走る前から、また走りたいと思っています」
ーーここからはレース中の動画を見ながら、当時の様子を振り返っていきたいと思います。
岡田:本編動画のオープニングを撮影したのはスタートの約2時間前で、時刻は16時半ごろでしたね。スタート時刻まで時間があるのに大勢の人がいたことが印象的でした。動画に出演してくれたランナーの中嶋友里さんにも多くのサポートをいただきました。彼女も100マイルレース経験者なので、一緒のチームとしてサポートしてくれる安心感は絶大でした(笑)。非常に心強いサポーターでしたね。
■UTMB出走レポートはこちら
岡田:スタート前の高揚感もすごかったです。スタートは18時なので、午後の時間帯は寝ようと思っていたのですがワクワクと緊張であまり眠れなかったという裏話もあります。
スタート前にはHOKAの特設ブース『FLYLAB』にも足を運びましたがすごかったですね。展示の内容もさることながら、木造の大きな一軒家でーー。しかもイベント後には撤去されていたので驚きました。
ーーいよいよレースがスタート。そのときの心境は?
岡田:スタート時の熱気がこれまた半端じゃなかったです。世界中から集まった強者たちによる空気感やMCの煽り、会場に流れる音楽にゾクゾクしました。「走る前から、また走りたいと思っています」……そんなことを口にしていましたね。
老若男女、現地の人か否かは関係なく、とにかく応援の数がすごくて、トレイルエリアに入っていくまで2、3kmほど街の中を走っていくのですが応援がずっと途切れない……。目にしたことのない景色でした。
ーーコースとなっている街の道路には飲食店が多くあり、観客のみなさんも食べながら、飲みながらレースを見れることがいいなと思いました。場面は1か所目のエイドステーションとなる31kmのポイントになりました。
岡田:前半は気持ちも体力もゆとりがあり「楽しい」気持ちしかなかったです。
岡田:レースの初日に大きな山を1晩かけて登っていくのですが、風もかなり強く厳しいコンディションでした。ただ山と夜を超えて見える景色が素晴らしかったです。ちょうどイタリアに入る60km過ぎのポイントなのですが、朝焼けに染まるモンブランを目にすることができて。空気感とか、スケールの大きさなど、人生の中で最も圧倒された景色でした。
ーー2日目の83kmのエイドステーションを通過したのがお昼でしたが、その日は気温も高く熱中症などの心配がありました。
岡田:当時はかなり汗をかいていました。またイタリアのエイドステーションは応援の仕方や言語が変わり、雰囲気の違いを感じていました。
イタリアのテンションも非常に高かったです。日本の国旗を振っている人がいたり、ゼッケンを見て僕のことを「タクミ!」と名前で呼んでくれたり、「あなたならいけるよ」「あなたがNo.1だ」と言ってくれたり……。
岡田:そんな楽しいエリアを抜けると、そろそろ表情からも疲れていることがわかりますね。太陽が昇っているうちは足も動いていたのですが、問題は夜でした。とにかく眠いーー。今までの100マイルのトレランレースでの眠気よりも大きな眠気がやってきて「5分だけ仮眠しよう」「起きたけれどまだ眠いから、あと10分だけ仮眠しよう」といった葛藤を繰り返して、走りながら寝転がれる芝生を探しては仮眠をしつつ、ちょっとずつ進んでいき、146kmのエイドステーションに辿り着きました。
岡田:最後の登りを控えたエイドステーションですが、気温も高かったこともあり消耗が激しく、眠気と内臓疲労に苦しんでいました。とにかく水分が体の中に入っていかなくて、これからラスボスの山を控えているのに水分補給ができず……。
ーーサポートチーム内でも岡田さんが熱中症のような状態だと連絡が入っていました。全日程の中でもかなり暑い日でしたね。
岡田:「レースを棄権しようか」「やめても『よくやったよ』って周りも言ってくれるだろうし」……そんな葛藤を繰り返していました。また登り終えてコースを下りはじめた直後には胃の中のものをすべて吐きました(笑)。100マイル以上のトレランレースで嘔吐したことははじめてでしたが、なんとかゴールに辿り着きました。
岡田:ゴール目前でサポートチームの姿が見えて、「岡田さん、待ってました! おかえりなさい!」と言ってくれたときに1発目の泣きそうな波がきました。また街の歓迎ムードも印象的でしたね。ラスト1kmあたりからは応援が途切れることなく。40時間ちかく走ってきたランナーへの拍手がすごくて……。
岡田:無事に帰ってきた安心感とともに、ヨーロッパ・アルプスの中で1番高いモンブランの周りを176km、グルっと回ってきたんだということを実感して、観客の歓迎ムードもあいまって、心がとても満たされました。旅を終えるということを実感できるゴール地点の雰囲気も素晴らしかったです。ゴール直後はその場に座り込みながら、サポートチームのみんなと色々な話をしましたね。
「会場にいるだけで『こんな場所があるんだ』と思うでしょう」
ーーUTMBを完走して1ヵ月ほどが経ちました。もう1度、UTMBを走りたいと思いますか?
岡田:レース直後は「もういいや」と思いましたけど、また走りたいです。UTMBには距離などが異なるさまざまな種目があります。次は今回とは異なる種目に出場してみたいですし、誰かがUTMBに挑戦するときに現地で応援することもいいなと思っています。
ーー自分もサポートチームとして帯同して、たとえ自身が出場しなくても、また誰かの応援のためにUTMBの会場に行きたいと思いました。
岡田:走ることはもちろんのこと、シンプルにUTMBの会場にいるだけで「こんな場所があるんだ」と思うでしょう。たとえ出場しなくても、UTMBは旅行を楽しむという意味で「最高のRun trip」なのではないでしょうか。現地に行くなかで「いつか自分も出場したい」と思うかもしれませんし。興味のある方はぜひ1度、UTMBに足を運んでほしいです。
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「いつの日か出場したい」と憧れていたUTMBに出場し、多くの人々に感動を与えた岡田さんの勇姿。これからも岡田さんの出場するレース、走る旅路に注目です。
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