ミズノのレースシューズ「ハイパーワープ」が作られるまで。ゼロベースからスタートした開発ストーリー
May 08, 2026 / COLUMN
May 08, 2026 Updated

昨年12月にミズノが発表したレーシングシューズの『HYPERWARP(ハイパーワープ)』シリーズ。新たなシューズの開発と進化の背景には、プロダクトの開発拠点となる『MIZUNO ENGINE』の存在があった。
本稿では、大阪市のミズノ本社敷地内に拠点を構えるMIZUNO ENGINEを訪れ、『ハイパーワープ』シリーズが開発されるまでの全貌を追った。
組織体制が変わり、ゼロから開発がスタート

これまでミズノが蓄積してきた技術やノウハウが反映されながらも、まったく新しいコンセプトのレーシングシューズとして開発された『ハイパーワープ』シリーズ。
かつて箱根駅伝をはじめとする駅伝や陸上競技の大会において、大きいシェアを誇っていたミズノだが、2017年の厚底シューズ登場によるゲームチェンジが起こるとその流れに十分追従することができなかった。
トレンドを読み切れていなかったことやスポーツメーカーとしての想いの強さから、「ランナーの声に寄り添うプロダクトをなかなかつくることができなかった」とマーケティング部門責任者の佐々木さんは振り返る。

厚底シューズの波がランナーに浸透するなか、2025年1月にミズノ社内の組織体制が変更。
「誰のためにものづくりを行っているのか」という視点が見直され、これまでより「ランナーに寄り添う」ランニングシューズをつくろうと真っさらな状態から開発が始まったという。
通常シューズ開発は企画から発売に至るまで1〜2年程度の期間にわたると話すのは、シューズ企画部門の責任者の陳さん。しかし、『ハイパーワープ』シリーズの開発にかけられた期間はわずか9ヶ月ほどだったという。

通常の半分ほどの期間で開発が可能になったのは、どのような要因があったのか。
『ウエーブリベリオン』シリーズをはじめ、従来モデルの開発において蓄積してきたノウハウや知見が短期間の開発を可能にした。さらに、陳さんをはじめチームのメンバーはランナーが求めるシューズについて、徹底的にヒアリングしたそう。
「方向性をドラスティックに変えたので、年明けの1、2ヶ月は選手たちのもとに行って愚直に聞きまくりました。そこから元々蓄積していた考え方と選手の声のギャップを確認して、形にしていく工程をすすめていきました」
『ハイパーワープ』シリーズの開発にあたり、じつに3桁にのぼる人数のアスリートにヒアリングを実施した。
通常は競技カテゴリーのプロダクトであれば、特定の選手の意見を参考にするというが、このシューズはゼロベースから開発を実施したことからより多くの選手の意見に耳を傾けた。
より多くの声を聞くことと開発期間を短縮する、相反する課題を同時に追いかけながら、ハイパーワープシリーズは開発された。

ゼロベースからスタートしたシューズ開発を、よりスピーディーに進めていくうえで開発拠点「MIZUNO ENGINE」の存在は欠かせなかったと陳さんは語る。
従来のシューズ開発は、プロトタイプを選手が使用したフィードバックを受け、その意見を海外のシューズ工場へ送り、次の試作品が作られるという流れだった。しかし、この流れだと1つの調整だけで1ヶ月〜1ヶ月半ほどかかってしまう。
だからこそ、9ヶ月という開発期間で商品を世の中に送り出すために、本社敷地内にMIZUNO ENGINEがあった意義は大きかったと陳さん。

「MIZUNO ENGINE」が短期間のシューズ開発を可能に

2016年から構想がスタートし、2022年に稼働を始めた「MIZUNO ENGINE」。ここでは、「はかる」「つくる」「ためす」という3つのサイクルを高速回転するための機能が詰め込まれている。

あらゆるスポーツの計測に対応するため、陸上競技場のタータンをはじめ、テニスコートや人工芝、ロード、体育館のコートといったさまざまなサーフェスを用意。さらにトレッドミルが備え付けられ、日々トップアスリートや社員による計測が行われている。

別のフロアには、シューズのアッパーとソールの接着や素材を削るなどといった目的別の専用スペースや機械が設置されている。このスペースでわずかな調整を施したあとに社員自ら試作品の計測をすることもあるという。

試作から計測、フィードバックまで素早いサイクルを可能にしたからこそ、『ハイパーワープ』シリーズのようなプロダクトが誕生した。
「ここ(本社横)にMIZUNO ENGINEがあって、機械があって、人がいて……全て結集されたことで高速で開発を進められました。
たとえば今週、選手のもとにプロトタイプを持っていって、ここちょっと微調整したいよねってなった時、横にあるMIZUNO ENGINEですぐソールを削って、パーツ加えてみてみたいな感じになる。そして翌週、翌々週また選手のもとに持っていくみたいなことが実現できました」

通常のプロダクトでは、プロトタイプの製作を3〜4回のサイクルにわたって繰り返すというが、今回の開発では非常に小さな微調整を多く施したそうだ。また、プロトタイプの製作は数え切れないほど実施されたという。
「ミズノさん、ようやく来ましたね」。アスリートから好感触のフィードバックも

『ハイパーワープ』シリーズの開発を受けて、シューズを着用する選手からはどのような反応があったのか。
シューズ企画部門責任者の陳さんは次のように語る。
「『ミズノさん、ようやく来ましたね』という声が選手から寄せられた感想としてやっぱり多かったですね。しっかりと選手の声を愚直にプロダクトに反映していくといった発想に転換した結果に結びついたと感じています」
「ハイパーワープ」シリーズは、軽量化された高反発素材『MIZUNO ENERZY XP』を搭載し、シリーズ最軽量137g(片足27.0cm)を誇る『HYPERWARP PURE』をはじめ、『HYPERWARP ELITE』『HYPERWARP PRO』とランナーのタイプに応じて3モデルが展開されている。

「『軽量』『安定』『反発』の3つがバランスよく形になっていること」が『ハイパーワープ』シリーズの強みであるとしつつ、「めちゃめちゃ軽いのに、反発が劣っていたり、安定感に欠けるのではなく、軽さと安定感と反発力のバランスというのが強いところ」と陳さん。
また、選手が足を入れた瞬間に良いシューズだと感じられるようこだわりがあるという。
「シューズって、足を入れた瞬間に勝負が決まるんです。走る前に足を入れた瞬間に、『これええ靴やな』『これ戦えるな』と思うかどうかが決まる。そのフィッティングや足入れの感覚に徹底してこだわりました」
厚底シューズの登場以後、箱根駅伝におけるシューズ着用数が低迷していたが、2026年大会では2名の選手がミズノのシューズを着用した。
マーケティング部門責任者の佐々木さんは「箱根駅伝は(着用数は)目標に届きませんでしたが、全国高校駅伝から大学女子駅伝および実業団駅伝と、近年ではかなり多くのランナーに履いていただけたと思っています」と手応えをコメント。さらに、これまで「厚底が苦手だった」という層にも価値を感じてもらえるプロダクトになっている、とのこと。
アスリートから高い評価が上がった『ハイパーワープ』シリーズ。大きな進化を遂げたレーシングシューズだが、とどまることなく次世代のシューズ開発が続けられているという。

今後のランニングシューズの企画について、陳さんは「シンプルにランナーに寄り添うものづくり。これを最大のポイントに、どんな価値、感動を届けられるのか、向き合ってシューズをつくっていきたい」と意気込む。
佐々木さんも「ランナーのみなさんにワクワクが伝わって、喜んでもらえるよう、ミズノのシューズの価値を伝えていきたい」と語った。
さらにランナーが驚くランニングシューズが、『MIZUNO ENGINE』から誕生するかもしれない。今後もミズノのランニングシューズ開発に目が離せない。
(文・写真:木幡真人)


