ランナーが新幹線移動で座るべき席は真ん中!睡眠指導のヒラノマリが解説
Jan 09, 2020 / HOW TO
Jan 09, 2020 Updated
みなさん、こんにちは!
アスリート専門に睡眠指導や睡眠管理をしているスリープトレーナーのヒラノマリです。『睡眠はトレーニングの一環(通称眠トレ)』をモットーに、普段はJリーガーの選手や五輪に出場した選手一人ひとりにあった睡眠法の指導や睡眠環境のコーディネートをしています。
睡眠は、私たちの人生にたくさんのギフトを与えてくれます。そのギフトとは具体的に何か、どうすれば受け取れるのかを『睡眠×ランニング』という切り口で、ご紹介しています。
年末年始に新幹線や飛行機を利用して旅行や帰省をした方、これからの季節だとマラソン大会に出場するために遠征する方も多いですよね。そこで気になるのが移動中の疲労。プロアスリートの方でも多いのが、日中の移動で疲れているのに、なかなか夜眠れないというお悩みです。
実は、移動中に間違った仮眠や間違った過ごし方をすると、頭がぼーっとしてパフォーマンスが低下したり、夜の睡眠に悪影響を与えたりするケースがあるんです。今回は、移動中の仮眠のコツを含め、疲労を軽減する移動中の過ごし方をテーマにお話していきたいと思います。
そもそも疲労とは?
『疲労=乳酸が溜まっている状態』というイメージをお持ちの方は多いかもしれません。しかし、本当の疲労の原因は、自律神経と活性酸素がキーワードになります。
自律神経の中枢は脳の中にあり、心臓の動きや呼吸、体温などの調整をし、いわば身体の中の司令塔の役割を担っています。自律神経に負担やストレスがかかると、自律神経を構成している神経物質が大量に酸素を消費するため、活性酸素(細胞を酸化させるパワーが強力になった酸素のこと)が発生します。体内に取り込まれた酸素の数パーセントが活性酸素に変化するため、呼吸をしている以上は体内で発生し続ける物質ですが、私たちの身体は活性酸素を除去するシステムを持ち合わせています。
しかし、対人関係や環境、強度の高いトレーニングなどで強い負荷がかかり、除去しきれない程の大量の活性酸素が発生してしまうと、細胞をサビさせ、自律神経がうまく機能しなくなり、疲労因子の『FF(ファティーグ・ファクター)』が作られます。この疲労因子が体内に増えると、「これ以上、身体に負荷がかかると危険! 」と自分の身体を守るために様々な不調が心身に現れます。
この状態が『疲労』の正体なのです。
雨風にさらされて自転車のギアがサビてしまうと、ギーギー音がして動きが悪くなりますよね。これが自律神経でも起きているのです。自律神経の細胞がサビついてうまく機能していないと、交感神経と副交感神経のスイッチがうまく入れ替わらず、夜になっても交感神経が優位に働いてしまい、寝つきが悪くなるなど、睡眠の質の低下に繋がります。睡眠の質が低下すると、傷ついた細胞の修復が十分にできず、さらに疲労が増す負のループに陥ってしまいます。
日中の疲労とうまく付き合うことが、夜ぐっすり眠ることに繋がるのです。
座っているだけなのに疲れてしまうのはなぜ? 移動中の疲労のメカニズム
では、ハードなトレーニングをしているわけではないのに、なぜ新幹線や飛行機でじっと座っているだけで疲れてしまうのでしょうか。これは、座っている姿勢と大きな関係があります。
座っている姿勢は、脚の付け根の股関節がほぼ直角のL字型の姿勢になります。このL字型の姿勢が静脈やリンパ流が圧迫し、血流が悪いと、循環を制御している自律神経に負担をかける上、腎臓への血流量を低下させるので疲労感が強くなるのです。
じっと座ったままでいると、腎臓の血流量が10%程度低下するとも言われています。腎臓の血流量が低下すると、腎臓で作られる尿の量が減り、血液中の老廃物(前述の疲労因子のFFなど)の排せつが滞ってしまいます。ずっと座っていると、トイレの回数が減るのもこのためです。
つまり、じっと座ったままでいると血流が悪くなり尿量が減って、細胞のサビで生じた疲労因子FFが体外に出にくくなるため、疲労感が強まってしまうのです。最近はエコノミークラス症候群なども話題になっていますが、エコノミークラス症候群の予防のためにも、疲労を軽減するためにも、こまめに水分を摂り、トイレに行ったり、たまに席を立つことが大切です。デスクワークの多い方にも、日々取り入れていただきたいポイントです。
ランナーのみなさんが普段使われているスマートウオッチの中には、1時間動かないでいると振動や音で教えてくれるものもあるので、そういったデバイスを上手に活用すると良いかもしれませんね。
夜の睡眠に悪影響⁈移動中の仮眠のポイントとは?
移動中はついウトウト……。そんな方も多いかもしれません。
仮眠をとる際のポイントは、仮眠の『タイミング』と『時間の長さ』です。
私たちの身体は、起きている時間が長くなるほど脳内にアデノシンという睡眠物質が溜まって、『睡眠圧(身体の眠りたいという本能)』が高まります。この睡眠圧が高いまま夜を迎えることが熟睡のポイント。ある程度睡眠圧を高めるには、最低7時間以上、身体を覚醒(起きた状態)させていることが必要です。つまり、睡眠圧を下げるほど長く仮眠をとってしまうのも、夜の車内で疲れてウトウトと寝るのも、禁物なのです!
また、仮眠のタイミングですが、ランチの後にくる眠気をうまく利用するのがおすすめです。
起床して半日後にあたる午後2時~4時に眠気の2回目のピーク(1回目は午前3時~4時ごろ)があることから、半日周期の体内時計が存在すると考えられており、この体内時計に合わせて午後3時までに仮眠をとると、夜の睡眠への影響を最小限にすることができます。
睡眠圧を考慮すると、午前中~午後3時までに20分の仮眠がベストと言えます。
仮眠をする際、首に負担をかけないようネックピローを。今の時期ならマフラーやストールを利用して首を固定してあげると、寝姿勢が安定します。
簡単にできる! 疲労を軽減する席、過ごし方とは?
『疲れにくい席』を選ぶ!
移動の際に気を使っていただきたいのが席選び! 実は、座る席によって疲労の度合いがかなり変わります。
もう一つ、移動中の疲労の原因として挙げられるのは、気圧の変化です。飛行機の場合、離着陸時以外は大きな気圧の変化がありませんが、新幹線や列車は対向車両とすれ違うときやトンネルに出入りするときに突発的な気圧の変化が生じます。急激な気圧の変化で、自律神経にストレスがかかり、交感神経が優位になるため、疲労や夜の睡眠の質の低下にも繋がります。『気圧の変化が少ない席=疲れにくい席』ということになります。
もちろん、車両の種類などによっても違いがありますが、新幹線や列車に乗る場合は、対向車両とすれ違っても気圧や揺れの影響が少ない車両の真ん中の通路側の席がおすすめです!
例えば、東海道新幹線でいえば9C~11Cの席になります。東海道新幹線だと、富士山が見える窓際のE席やD席が人気ですが、対向車両とすれ違う機会が多い席でもあります。外の景色を眺めたいのなら、E席よりも対向車両とすれ違う機会の少ないA席がおすすめです。A席は午前中に日が差す席でもあるので、時差ボケや体内時計が乱れている方におすすめの席です。
水分を摂って、こまめに動く!
前述のとおり、じっと座っていると腎臓への血流量が低下し、疲労物質がうまく体外に出せず、疲労感が増します。こまめに水分を摂って、1時間に1回を目安にトイレに立ってみるなど、少し歩くようにしましょう。
夜の新幹線での移動では、ブルーライトカットメガネをかける
夜遅くまで明るいオフィスで残業したり、夜遅い時間の新幹線に乗ったりすると、疲れているのになかなか寝付けないという経験はありませんか? これは『光』が睡眠に大きな影響を与えているためです。夜に500ルクス以上の光を浴びると、睡眠ホルモンのメラトニンの分泌が半分程度になってしまい、疲れているのに眠れない原因になります。
新幹線の車内は500~700ルクスというかなりの明るさ。スーパーマーケットの店内と同じぐらいの明るさがあります。少し明るめのリビングで300ルクス程度なので、それよりもかなり明るいということになります。
実は、スマホだけではなく、新幹線内のLEDの照明からもブルーライトが出ています。ブルーライトをいかにカットできるかが夜ぐっすり眠るための鍵になります。手軽でおすすめなのが、ブルーライトカットメガネ!ブルーライトを手軽にカットできて、見た目もお洒落なものが多く、試しやすいのではないでしょうか。メーカーによる違いもありますが、5,000円前後でブルーライトカット率50%程のものが買えるので、夜の新幹線や電車でぜひ利用してみてくださいね。
ちょっとしたコツで、移動中の疲労を軽減し、夜ぐっすりと眠ることができます。試合で遠征される方も出張の多いビジネスマンも、ぜひ試してみてくださいね。
≪参考文献≫
国立医療学会誌 69(7), 317-324, 2015-07
『なぜあなたの疲れはとれないのか?』梶本修身 著
睡眠学入門ハンドブック 日本睡眠教育機構
Correlates of sleep and waking in Drosophila melanogaster.Science. 2000 Mar 10;287(5459):1834-7.