けがを抱えながらの2連覇。上田瑠偉選手が明かす富士登山競走の裏側

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プロ山岳ランナー・上田瑠偉選手

7月24日に山梨県富士吉田市で開催された「第79回富士登山競走」山頂コース男子の部で、2時間43分58秒のタイムで2連覇を達成したプロ山岳ランナー・上田瑠偉選手。昨年の初優勝に続く快挙でしたが、本人はけがによる痛みを抱えたままの出場だったと振り返ります。

困難のなかでつかんだ優勝の裏には、どのようなドラマがあったのでしょうか。この記事では、スポーツMCの岡田拓海さんが聞き手となり、2連覇達成の舞台裏に迫ります。

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スポーツMC・岡田拓海さん

痛み止めを飲んで挑んだ富士登山競走。月間270kmで迎えた本番

富士登山競走の山頂コースは、標高770mの富士吉田市役所をスタートし、吉田口登山道を経て3776mの富士山山頂へ。標高差約3000mを約21kmで駆け上がります。完走率はわずか34.0%(今大会)、制限時間は4時間30分という厳しい条件のもと行われるレースです。

この過酷なコースを2時間43分で駆け上がって優勝した上田選手ですが、レースを振り返ると、コンディションは万全ではなかったと明かします。

「5月末にシンスプリントになり、その後腓骨を痛めてしまい、あまり練習できていませんでした。レース当日もウォーミングアップをしていて、完走できるのか不安になるほど痛みがありました。7月は月間270km程度しか走れてない状況だったんです」

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厳しい状態で迎えたレース。2連覇がかかった今回は、ウォーミングアップ中に出た足の痛みを抑えるため、痛み止めを服用してスタートラインに立ったとのこと。

トレーニングの段階から、上りでは軽減されるものの平地では痛みが出たと言います。今年、高尾へ引っ越したのを機に、自宅へ斜度40%まで設定できる特殊なトレッドミルを設置していたそう。そこで急勾配の環境をつくり、歩いたり走ったりしながら、けがを抱えつつも対策を講じてきたと話します。

岡田さんから「2連覇という目標もあったと思いますが、プレッシャーは抱えていましたか」と問われると、意外にも「なかった」と答えます。「初優勝を狙った昨年の方がプレッシャーは大きかった」と振り返りつつ、「それに比べると気負うものがなく、どっしり構えて走れました」と語りました。

前半はあえて前を追わず、後半勝負にかけたレース

一方、富士登山競走の序盤10kmはロード区間。ここに不安を抱えていたそうです。「前半から速いペースについていってしまうと脚が残らず、後半ペースを落としてしまう」ことを懸念し、この区間はあえて前を追わないと決めていたと振り返ります。

3km通過時点では2〜3位につけていた上田選手ですが、7.2km地点の中ノ茶屋給水ポイントでは4〜5位に後退。「だいぶ先頭の背中が離れてしまった」と感じたそうですが、意識していたのはリズムを崩さないことでした。10.8kmの馬返しを過ぎても「相手や順位を気にしてアクセルを変えることはせず、淡々と自分のペースを保っていった」と言います。

後半の山岳区間に入ってから徐々に順位を上げ、五合目通過時点では2位に浮上した上田選手。先頭の背中が見える位置につけ、「追う側としては元気が出ますよね」とその時の心境を語ります。そこから得意の上りで距離を詰め、七合半〜八合目でトップに立ったそうです。

トップに立ってからフィニッシュまでが長かった。脚が攣りながら山頂へ

八合目でついに先頭へ躍り出てからも、山頂までの道のりはさらに険しかったと上田選手は振り返ります。

抜いた直後こそ差はついたものの、そこからはなかなか広げられません。さらに脚が攣り、身体を動かしたいのに、これ以上出力を上げると攣る範囲が広がってしまう。そんな「さじ加減の難しい状態」が続いたとのこと。

レース中に脚が攣った経験はこれまでもあるそうですが、今回は膝の裏。身体を折り曲げるようにして山道を登っていったと語ります。富士山の山岳区間は砂利や軽石のような沈み込む路面も多く、足に非常に負荷がかかったと振り返りました。

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また、八合目より上は酸素がさらに薄くなってペースが落ちるため、ほぼ歩くように山頂へ向かっていたと振り返ります。このエピソードが、レースの過酷さを物語っています。

いよいよ山頂にたどり着き、先頭でゴールテープを切って2連覇を達成した上田選手。華々しい結果の裏で、「計測マットの上でピキッと膝裏が攣って倒れ込みました」と明かします。

「計測マットが3枚設置されているんですけど、真ん中で倒れ込んだんです。誰も来なくて、もしかしてもうひとつ先に行かないとゴールじゃないのかなと思って『ここがゴールですか?』と思わず聞いてしまいました(笑)」

連戦のなかでつかんだ連覇に「ほっとしました」と上田選手は語ります。

水分1.8L、約1000kcal。2連覇を支えた補給プラン

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過酷なレースを戦い抜くうえで気になるのが、どのような補給やドリンクを用意してレースに臨んだのかという点。今大会は500mlのソフトフラスク3本と300ml1本、合計1.8L分を用意したそうです。そこにアミノサウルスのパウダーを入れてスタートしたと話します。

前半のロード区間は給水の必要がないと判断し、軽さを重視して空のソフトフラスクを携えてスタート。中ノ茶屋のエイドで300mlに水を入れ、10.8kmの馬返しまでに飲み切りました。その後は500mlの3本にも順次補給し、計画していた1.8Lに加えて各ポイントで別の水も口にし、合計2L程度を摂取したそうです。

使用したアミノサウルスのパウダーは、アミノ酸に加えてエネルギーも摂れるタイプ。

「500mlで200kcal程度」のものをレース全体で3袋半ほど使い、ほかにジェルも携行して、合計1000kcal程度を補給したと振り返ります。

初優勝を果たした前回と比べても、量や種類の用意は「感覚的にうまくできた」と言い、「脚は攣りましたが、補給に関してはこれまで参加した中で一番うまくいった」と語ります。

また、山頂コースに挑むうえでは高地への順応も欠かせないと上田選手は言います。昨年は富士山周辺で何度も合宿を行って実際に登り、今年も6月に中国へ遠征。標高3000mの地域に滞在し、標高3000〜4000m級の山々を走るレースに出場したことで身体を慣らせたと振り返ります。さらに自宅には低酸素テントを設置し、高地環境に対応できるようにしたそうです。

足元はトレイルシューズではなく、中厚底のロードシューズ

後半に山岳区間が続く富士登山競走ですが、上田選手が前回・今回と足元に選んだのは、アディダスの『ADIZERO TAKUMI SEN 10』でした。

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『ADIZERO TAKUMI SEN 10』(出典:adidas公式サイト)

前半のロード区間でのスピードと、後半の山岳区間での安定感を両立させるため、反発性の高い中厚底の同モデルを選んだとのこと。

同じく今回の山頂コースを走った岡田さんは「市民ランナーの中でもトレイルシューズを履くランナーのシェアが少しずつ上がっている気がしたんです」と振り返りつつ、「トレイルシューズを選ばなかったのは、やはりロード区間を重視しているからですか」と尋ねます。

上田選手は「昨年は大会記録更新も狙っていたので、宮原選手の大会記録と比べると五合目の通過タイムが最大の課題でした。ロードをどれだけ速く走れるかにポイントを置いていたので、昨年からロードシューズをチョイスしました」と語ります。

完走を目指すランナーには「五合目コース1時間40分の走力が必要」

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今後、富士登山競走を目指すランナーへのアドバイスを問われると、上田選手は「五合目コースであれば、ロード区間が長く、傾斜が5〜8%ほど。上り続けるコースなのでトレッドミルなどで傾斜をつけて走る練習をするのがいいと思います。それから、五合目コースのスタートは山頂コースよりも1時間半遅い8時30分スタートで暑くなるので給水をしっかりしてほしいです」とアドバイス。

また、山頂コースを目指すランナーに対しては、「五合目通過の関門が2時間15分になるので、余裕をもって通過するためには五合目コースを1時間40分で走り切る走力がないと、後半区間への対応も含めて難しい」と話し、「山頂のフィニッシュ地点での制限時間も4時間30分で五合目の関門から考えると、さらに2時間15分で上らなければならないですよね。完走を目指すなら、上りを走るための脚力や低酸素環境に順応するトレーニングが必要になりますね」と解説しました。

最後に今後の予定について、8月はUTMBのOCC(約60km)に出場すると明かした上田選手。「世界中のエリートランナーが集まる空気、刺激は感じるものがあるので、課題をもってレースに臨みたい」と真剣な眼差しで語りました。

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その後は、日本トレイルランニング・グランプリシリーズ最終戦の白馬国際クラシックにも出場予定。シリーズ2戦を終えて男子7位の現状から巻き返しを図れるかが焦点です。「状況的に僅差で、誰が勝っても総合順位が上に行く可能性があるので面白い展開になると思います」と、注目のポイントを語りました。

富士登山競走2連覇を果たしてなお、次のレースを冷静に見据える上田選手。その走りから目が離せません。

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