五輪選手内定のMGCは東京マラソンとほぼ同じコース。女子注目選手を立教大・上野裕一郎監督が語る
Sep 11, 2019 / MOTIVATION
Sep 11, 2019 Updated
2019年9月15日(日)、東京オリンピックのマラソン日本代表を決める『マラソングランドチャンピオンシップ』(以下“MGC”)が東京で開催される。
これまで、オリンピックや世界選手権においてのマラソン日本代表の選考は、いくつかの対象レースでの成績を総合的にみて行われていたが、自国開催のオリンピックに向けて、まず3枠のうちの2枠を決める初の試みが行われる。MGCでの注目選手と見どころを、立教大駅伝監督の上野裕一郎氏(ベルリン世界選手権男子5000m日本代表)に訊いた。
前編では、MGCの概要と女子レースの注目選手にスポットを当てる。
MGCの概要とコース
MGCは午前8時50分に男子、午前9時10分に女子がスタートし、男女の優勝者と2位の選手の各2名が代表に内定。そして、残り各1枠は12〜3月に行われるMGCファイナルチャレンジの対象レースで、男子は2:05:49(日本記録相当)、女子は2:22:22の派遣設定記録をクリアした最上位が3枠目の代表となるが、記録達成者がいない場合はMGC3位が3枠目の切符を手にする。
MGCのコースは以下である。
MGCでは外苑のイチョウ並木を発着点とするが、発着点を除いて東京オリンピックのマラソンコースとほぼ同じで、現在の東京マラソンのコース(新宿→日本橋→浅草→銀座→品川→東京駅)がベースとなっている。スタートしてからアップダウンがあり、2〜5kmまで下りが続く。そこからは最後の5kmまでは概ねフラットなコースである。
東京マラソンと同じく、浅草や銀座、東京タワーなど東京の名所をコースに散りばめ、華やかなシティマラソンのコースとなっている。37kmから上りが続き、40km付近からは100mほどの急な上り坂が待ち構える。最後の2kmはアップダウンが続くが、ここで余力の無い選手は大きく失速するだろう。
女子レースの注目選手
以下がMGCの女子レースに出場する12名の選手と自己記録である。
【上野監督が注目する4選手】
鈴木亜由子(日本郵政グループ)
マラソン経験1回(優勝1回)
自己記録 2:28:32(2018年北海道マラソン:優勝)
鈴木は、ユニバーシアードの10000mで金メダルを獲得。トラックの長距離種目でのスピードを武器にして北京世界選手権、リオオリンピック、ロンドン世界選手権に出場。2018年の北海道マラソンで優勝し、MGCへ駒を進めた。自己記録はその時の2:28:32であるが、北海道マラソンは夏のマラソンである。2019年には丸亀ハーフで1:07:55の日本歴代3位の好記録をマーク。
(上野監督)
「鈴木選手は出場選手中で1番のスピードを持っています。元々はトラック競技で日本代表に3回なるなど活躍していましたが、初マラソンの北海道マラソンでいきなりMGCの出場権を獲得するだけあって、能力が高いと再確認しました。まだ、マラソンの経験が1度だけですが、彼女の圧勝もあり得ると思います」
福士加代子(ワコール)
マラソン経験11回(優勝2回)
自己記録 2:22:17(2016年大阪国際女子マラソン:優勝)
福士は世界選手権、オリンピック合わせて通算9回の出場経験がある37歳のベテラン。2013年にはモスクワ世界選手権のマラソンで銅メダルを獲得。前回のリオオリンピックはマラソンで14位。幾多のレース経験があることから、勝負勘は出場選手の中でも随一。2019年1月の大阪国際女子マラソンで転倒して途中棄権するも、3月の名古屋ウイメンズマラソンでは2:24:09で走り、MGCの出場権を得た。
(上野監督)
「今年の大阪国際女子マラソンでアクシデントがあって途中棄権となりましたが、それから期間があまり経っていない名古屋ウイメンズマラソンでMGCの出場権を獲得するところを見て、ベテランらしい執念を感じました。ストイックな選手ですし、経験値が高いのでレースの主導権を握る可能性もあるでしょう」
一山麻緒(ワコール)
マラソン経験2回
自己記録 2:24:33(2019年東京マラソン:7位)
2017年世界クロカン、2018年世界ハーフの日本代表。21歳での初マラソンとなった東京マラソンでは、1:10:29で中間点を通過し、30kmまで2時間21分ペースで突っ込んだ。一山は4月のロンドンマラソンでMGCの出場権を得て、7月の函館ハーフマラソンでは日本歴代8位の1:08:49で優勝するなど、調子を上げてきている。
(上野監督)
「22歳と若い選手ですが、マラソン適性がないとMGCの出場権を獲得できません。これからも練習を積めばもっと速くなるでしょうし、ワコールで福士選手と一緒に練習しているので、一山選手がベテランの選手から学ぶことは多いのではないでしょうか。福士選手に比べるとまだ経験が浅いので、大事なレースにピークを合わせられるかがポイントとなるでしょう」
松田瑞生(ダイハツ)マラソン経験2回(優勝1回)
自己記録 2:22:23(2018年ベルリンマラソン:5位)
2017年日本選手権10000mで優勝した松田は、22歳で迎えた初マラソンの2018年大阪国際女子マラソンを2:22:44の好記録で優勝し、マラソン適性の高さを見せた。6月の日本選手権10000mでは2連覇を達成し、秋のベルリンマラソンでは自己記録を2:22:23まで縮めた。この記録は昨シーズンの日本最高記録となった。
(上野監督)
「昨年は初マラソンで優勝し、日本選手権10000mで2連覇。秋のベルリンマラソンで好走しましたが、今年は昨年ほどの勢いを感じないのが少し気になりますね。今シーズンの調子はどうでしょうか。ただ、女子の選手は急激に調子を上げてくることあるので、あなどれない存在でしょう」
女子レースの見どころ
女子は出場者が12名と男子の31名に比べて少なく、ベテランの福士の経験値に対してスピードのある若い選手がどのような展開に持ち込めるかが見どころとなると上野監督は話す。
「福士選手は最後の直線勝負に持ち込みたくないでしょうから、後半のどこかで仕掛けるのではないでしょうか。若い選手はスピードと勢いがありますが、大きな大会では鈴木選手、福士選手あたりに調整能力の高さがあります。また、天満屋の武冨監督は、これまでに4人のマラソン選手をオリンピックの舞台に立たせていますので、天満屋の2人(前田、小原)も気になりますね」
「女子選手は、高地トレーニングで体を絞り込んできます。女子のレースは、当日に調子が良い選手が積極的にレースを進め、後半にかけて徐々に選手が脱落していく展開となるでしょう」
注目の女子レースは、9月15日午前9時10分にスタートする。
後編:“男子レースの注目選手と見どころ”に続く。
上野 裕一郎(うえの ゆういちろう)1985年7月29日生まれ、長野県出身。立教大学陸上競技部男子駅伝監督。佐久長聖高 - 中央大 - エスビー食品 - DeNAにてトラック種目・駅伝で活躍。2009年日本選手権で1500mと5000mの2冠を達成し、同年のベルリン世界選手権の5000mに日本代表として出場。2018年11月末にDeNAを退団し、同年12月1日付で立教大学陸上競技部男子駅伝監督に就任。
(文 河原井 司)