作る側と使う側では目線が違う!? ランニングギア開発者×トレイルランナー

「作る側と使う側では目線が違う!? ランニングギア開発者×トレイルランナー」の画像
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ランニングは、“シューズ”と“ウェア”さえあれば楽しめるのが魅力。そんなランニングにのめり込めばのめり込むほど、様々なギアを試してみたくなりますよね。

今回、トレイルバッグに付いているバックルや〝結ばないシューレース〟を開発している『株式会社ニフコ』のプロダクトデザイナー・清水洋兵さんと、それを普段利用している側のトレイルランナー・反中祐介さんをお呼びし、開発者がどんな思いで商品を作り、ランナーはどんなこだわりを持ってそれらを使っているのか、思っていることを話していただきました。

〝作る側〟と〝使う側〟、立場は異なるもののどちらも熱い思いを語ってくれました。

商品開発者がトレイルランナーと念願のご対面

「作る側と使う側では目線が違う!? ランニングギア開発者×トレイルランナー」の画像株式会社ニフコのプロダクトデザイナー・清水洋兵さん(左)と、トレイルランナーの反中祐介さん。立場の違う2人がギアについての意見を交える

――本日はよろしくお願いします。お2人は〝開発者〝と〝ランナー〟という立場ですが、まずはお互い自己紹介をお願いします。

反中 トレイルランナーの反中祐介です。普段はアメアスポーツジャパン(取扱ブランド:SALOMON・SUUNTO等)で仕事をしていて、ショップで販売をしたり、ランニングのイベントを開催したり、あとは選手活動としてトレイルランニングの大会に出てPRをしています。最近は拠点を北海道に移し、Sapporo Experience Baseというショップで働いています。

【以前、反中さんにSapporo Experience Baseを案内してもらいました】

清水 ニフコの清水と申します。大学は多摩美術大学出身で、元々は住宅設備の設計をしていまして、引き戸など、ゆっくり閉まるようなクローザーを中心にやっていました。そこから2年前くらいにアウトドア部門に移りまして、バックパックやアパレル、シューズに取りつくバックルやコードロックを開発しています。

――清水さんは普段走ったりするんですか?

清水 ちょくちょくですね。元々は登山をしていたんです。

――反中選手は元々中学から陸上競技をやっていて、今はトレイルランナーとして活動しています。どのタイミングで山に魅力を感じたのでしょうか。

反中 大学時代にランニングチームのコーチをしていたんです。当初はマラソンをメインに指導していたんですけど、会員の中にトレイルランニングをする方がいて、その方にも指導できるようにということで、実際にレースに出てみたんです。それがトレイルを始めたきっかけですね。

自分は出身が岐阜県の飛騨高山というところなんですけど、すごく田舎なんですよ。山しかないみたいな。住んでいる時はわからなかったんですけど、トレイルランニングを始めてから改めて地元の良さがわかったというか、どんどん山にのめり込んでいきましたね。

『クイックシューレース』『SRLL(エスアールエルエル)』名称の異なる〝結ばない靴ひも〟

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――ロードからトレイルに移るとギアも変わってくると思うのですが、ロード時代はギアへのこだわりってありましたか?

反中 ロードだと、いかに『軽装で無駄をなくすか』ということにこだわっていました。トレイルランニングは山のスポーツなので、環境やコンディションによってもギアを選ぶ必要があります。例えば雨が降ったらグリップ性重視のシューズを履いたり、レインウェアを羽織ったり……。用途に合わせたギアのチョイスというのを細かくこだわるようになりましたね。

特に、トレイルは枝や葉っぱが飛び出していることも多いので、普通のシューレースだと途中で紐がほどけるリスクがあったりします。足場が悪いところを走るだけに、常に集中力を維持しなければいけないのですが、それでは満足に走れないですよね。だから自分はSALOMONの『クイックシューレース』(結ばないタイプのシューレース)を使うんですけど、ひも自体水を吸わないですし、強度も高いので引っかかっても切れにくい。安心して走れるので、トレランをやる方にはクイックシューレースをオススメしています。

「作る側と使う側では目線が違う!? ランニングギア開発者×トレイルランナー」の画像普段『クイックシューレース』を活用している反中選手は、現在〝トレイルランナー〟と〝ショップ店員〟という2つの顔を持つ

――いかにレースに集中できるかが重要になってくるんですね。ちなみにシューレースの話が出てきましたが、クイックシューレースのことをニフコさんの中では『スピードレーシング』と呼んでいるそうですね。これって呼び名は決まっているのですか?

清水 クイックシューレースはSALOMONさんの商標で、実はニフコではネーミングが固まっていないんです(笑)。

反中 え!そうなんですか?(笑)

清水 だから早く決めないといけない。正式にはSRLL(Side Release Lace Lock)』っていうんですけど、意味がわからないじゃないですか(笑)。だから「名前を変えなきゃ」ってずっと思っていたんです。

――なるほど。SALOMONさんでは『クイックシューレース』、ニフコさんでは『SRLL』と呼んでいる。同じものだけど、呼び名が違うのは面白いですね。

反中 元々SALOMONではスキーブーツなどにも使用されていたんです。他にも、モノによっては留める部分が「カチャッ」ってなるバックルタイプの商品もありますし、色もたくさんあるんですよ。黒、グレー、白、緑、黄色、赤の6色展開です。

パーツに対しての安心感はあるので、自分は『個性をいかに出すか』をこだわっています。素材にケブラー(芳香族ポリアミド樹脂)を使用しているので、普通の5倍以上の強度があるんです。でも申し訳ないんですけどハサミで切って、クイックシューレースを2色用意して、自分なりにアレンジしています。

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反中選手オリジナルのクイックシューレース活用法。黒いシューレースを引っ張ると前足部を、黄色いシューレースを引っ張ると後足部を締めることができる

これはクロスカントリースキーの有名な選手に教えてもらった、シューレースのアレンジ術なんです。一般的なシューレースって足全体に均一に締まりますけど、微調整ができないじゃないですか。真ん中だけ緩めるとかができないんです。このアレンジ術は色を2色用意して、2つを組み合わせることで細かい微調整をすることができる。これはどの靴でもできる裏技ですよ!

――清水さんはこういう使い方があるというのをご存知でしたか?

清水 そういう(微調整したい)ニーズがあるというのは知っていましたが、こんな風な使い方をしているのは初めて見ました!とても興味深いです。実際に『UTMF(ULTRA-TRAIL Mt.FUJI)』のサポートをさせていただいた時にもユーザー様からそういう意見を頂きまして、そこを何とか改善できる構造ができないかなといくつかアイデアを考えています。

「作る側と使う側では目線が違う!? ランニングギア開発者×トレイルランナー」の画像清水さんはニフコのプロダクトデザイナーとして、アウトドア用のバックルやコードロックを開発している

反中 これはSALOMONならではだと思うんですよね。SALOMONでは各種スポーツのシューレースを揃えているんですけど、使っているシューレースは大体一緒なので、競技を越えての意見交流ができるんです。これもクロスカントリーの選手に教えてもらったアレンジ術なので、普通だと閃かないような付け方ですよ。だから「シメシメ」と思って誰にも言ってないんですよ。初めて言いました、これ(笑)。

清水 言ってしまって大丈夫なんですか??

反中 どうせ言うならニフコさんかなと思って……(笑)。ぜひ商品化してほしいですね。

清水 ありがとうございます。締め付けを変えるのは、具体的にどういうシーンでされるのですか?

反中 普通のロードに比べて、山道は上り下りが激しいですよね。なので、シューズの中がズレることが多いんです。きつく締めすぎてしまうと、どうしても足の甲が痛くなってしまいますし、緩すぎると動いてしまう。だから各ポイントで変えたいんですよね。

操作性に個体差が出るのが課題

――ニフコさんは普段どんなことを意識して開発をされているんですか?

清水 例えばこうしたコードロックも、ボタンを押しやすくするには平面の方が指でつまみやすいんですけど、これが細い側面の部分にボタンを設けてしまうと押しにくいんですよね。特に走りながらだとブラインドの状態で操作するケースも多いので、そうした中での自然な手の動きとか、『見えないところでもつまみやすい』というのを意識して開発しています。

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――トレラン中にバックルって付け外ししますか?

反中 レースとか、エイドステーションで荷物の詰め替えをする時くらいですね。基本的にはポケットとかに(アイテムを)入れるようにして、外さないようにしていますね。練習の場合だとリラックスする場面も多いので、意外と付け外しするランナーも多いと思いますよ。

清水 その時に操作が固かったりする時もありますか? よく濡れていたり泥が付いたりすると固いという声を聞くのですが……。

反中 基本的にはないんですけど、個体差が激しいのもあるので、スムーズにいくものもあれば、グッと力を入れる必要があるものもありますね。

清水 あー、そうなんです。樹脂バネを使っている製品でもあるので、バネ力に若干差が出てしまうんです。紐の寸法や微妙な誤差によってバラつきが出てしまう。そちらも改善すべきことですね。

――個体差は感じるものですか?

反中 自分はお店に立っているので、いろんな商品の様子をチェックしたりするのですが、若干のバラつきは感じることがありますね。

清水 樹脂バネって熱によって固さが変わってしまうものなので、寒いところと暖かいところだと差が出てしまうんです。寒いと固くなりますし、直射日光を浴びて熱を帯びると柔らかくなったり。

〝柔らかいけどしっかりハマっている〟バックルが理想的!

――反中選手はどんなバックルがお気に入りですか?

反中 やはり固すぎない方がいいですね。寒いレースの時とかだと指先に力が入らない時もあるので、そういう時にバックルが固いと取りづらい場合があると思います。スカイランニングみたいな標高差が激しいレースだと、麓と山上では気温がかなり違うので、山中では手袋を装着する場合もある。そんな状態でも操作しやすいくらいがちょうどいいと思います。『柔らかいけどしっかりハマっている』というのが1番理想的ですね。

清水 反中さんがおっしゃったように、操作性はどんな状況下でも高めないとといけません。先ほど手袋の話がありましたが、装着していてもつまみやすいのが目指しているところです。

――反中選手はこういうギアがいいとかってありますか?

反中 シューレースだったら、意外と初めての方だとクイックシューレースのつまみ方がわからないという意見が多いんですよね。力づくでグッと押してストッパーが緩くなることが多い。なので、「今、押せているかも」と実感できた方がいいと思うので、そこがもっとわかりやすくなると使いやすいのかな。店頭だと僕が直接教えてあげられるのですが、最近だとネットで買われる方も多いので。

「作る側と使う側では目線が違う!? ランニングギア開発者×トレイルランナー」の画像反中選手の話す、クイックシューレースのつまみ部分

清水 いや~、最高に楽しいですね(笑)。こういう話をいただけると、すごくありがたいです。おっしゃる通りで、今の製品の悪いところが、操作が2段階なところなんです。つまんで、親指でグッと押してからスライドするので、知らない人は無理に引っ張ってしまう。そうするとコードが痛んだりとか、中のギアが削れてしまって、それによってドック力が落ちてしまうというのは実際に試験でも出ているんです。いつか改善したものを生み出せるようにがんばります。

――機能性も重要ですが、一方では先ほどの反中選手のお話にあったように、ファッション性も気にしているという声もあります。そういうところも意識されているのでしょうか?

清水 そこも、周りの雰囲気に合うような面の作り方だったりとか、この小さい中で様々な工夫はしていますね。

反中 SALOMONではクイックシューレースの取り付けキッドがあるんですよ。最近は普通のファッションシューズにクイックシューレースを取り付ける人も増えているんです。キッドは火を使うのでライターが必要になったりで、すぐに完成するという感じではない。お店だったら自分が取り付けてあげられるんですけど、お客さんが自分でやるには難しいと思います。キッドもシンプルなのを作ってもらえるとうれしいですね。

清水 けっこう部品がバラバラになっているんですよね。

反中 そうですね。しかも1回取り付けたら終わり、という感じじゃないですか。自分は靴ひもをめちゃくちゃ変えるタイプなので、使いまわしができたらいいですね。

清水 こういう締め付けのユニットみたいなのが単体で販売されていたら気になりますか?

反中 すごく気になりますね! やはりシューズって変えられないですけど、靴ひもとかインソールとかって変えられるものじゃないですか。そこで個性を出したり、機能性をプラスしたりできると思うので、それはあったら気になりますね。

清水 そういう意見をダイレクトにいただけると本当に助かりますね(笑)。

 

――今日はランナーとして実際に活躍して、しかも商品を販売する立場でもある反中選手と対談していただきましたが、清水さんはいかがでしたか?

清水 ものすごく刺激になります。メーカーさんとお話しする機会はあっても、実際にプロで走られている方の意見というのはなかなか直接聞ける機会がなかったので。自分たちが思っていたのとは違う切り口の視点や、「こういう考え方もあったのか」とプラスな印象が強いです。ぜひ期待に添えられるような商品づくりを心掛けていきたいと思います!

――反中選手は最後に何か言っておきたいことはありますか?

反中 言いたいことが言えたので満足です(笑)。今後ともすばらしい商品づくりをお願いします!

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【株式会社ニフコ  バックル専用サイト】
https://nifcobuckle.com/

【反中選手のインタビュー記事はこちら】
https://mg.runtrip.jp/archives/1058

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松永貴允が執筆した記事

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