中野ジェームズ修一さんと元主務の高木聖也さんが語る青学大「3冠&3連覇」の秘訣とは?
Feb 17, 2017 / MOTIVATION
Apr 26, 2019 Updated
正月に行われた箱根駅伝は、青山学院大学の「3冠&3連覇」で幕を閉じました。圧倒的な強さを誇った青学大ですが、彼らの強さの秘訣は「青トレ」と呼ばれる独特の体幹トレーニングにあるようです。
そこで今回は、青トレを考案したフィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんの講演会にお邪魔し、その実態を探ってきました。
初めて青学大のトレーニング風景を見た感想は「結果に結びつくトレーニングではない」
1月26日(木)、「Triple R(トリプル・アール)」主催のイベント「K.I.P(KNOWLEDGE IS POWER)」で、中野ジェームズ修一さんの講演会は行われました。「結果がだせる!青学メソッド」と銘打ったイベントには、中学生からオジサン世代の市民ランナー、はたまた高校陸上部の先生まで、様々な方が参加。人気トレーナーの話に耳を傾けていました。
さらに、特別ゲストとして元青学大駅伝チーム主務の高木聖也さんも駆けつけ、青学大の強さの秘訣や、ここだけの裏話をたくさん語ってくれました。
トークテーマは「アオガクのトレーニングメソッド」。青学大はどのようなトレーニングで箱根駅伝を制したのでしょうか。まず、中野さんが青学大と接点を持つようになった経緯から話は進んでいきます。
「(青学大が箱根駅伝で初優勝する前の年に)アディダスの方から、『青学大の原(貢)監督がフィジカルトレーナーを探していて、1回会ってみませんか』と話がありまして、1度練習を見させていただきました。当時アディダスは、すでに3年間くらい青学大をサポートしており、私もアディダスの契約アドバイザーをしている関係もあって、優勝のために何かお役に立てればという気持ちで伺わせていただきました」(中野さん)
ところが、実際に練習を見てみると、準備運動から補強トレーニング、ストレッチの全てが、優勝を目指した体作りのために計画立てられたものとは言い難い状況でした。中野さんはその時の様子をこう振り返ります。
「優勝を目指している、というイメージでトレーニング風景を見に行ったのですが、実際は、そのような結果に結びつくには程遠いものでした。でも、そのことをダイレクトに言ってしまうわけにもいかず、『一般的にはよく考えられたメニューだと思います』って(笑)。当時彼らが行っていたトレーニングは、足し算と引き算も知らないのに《関数》にチャレンジしているようなものだったんです。その《関数》のようなエクササイズとは、雑誌や書籍などに載っている、一見カッコよく見える難易度が高めのもの。でも、そのエクササイズをきちんと行うためには、その前にしっかり鍛えておかなければならない筋肉があるんです。つまり足し算と引き算という基礎ができていないのに《関数》を一生懸命勉強しているイメージでした」
「青トレ」でおなじみのフィジカルトレーナー・中野ジェームズ修一さん
これには当時の主務だった高木さんも「関数ばかりでしたね」と苦笑い。その後、中野さんは時間をかけて、それまでチームで行われていたトレーニングを刷新していきます。青学大の選手は呑み込みが早く、あっという間に〝中野メソッド〟を吸収していきました。
「原監督からは、『なぜストレッチをするのか、なぜこの筋力トレーニングをするのか、理論から入ってほしい。理論から説明すれば、この子達は頭が良いのでわかるはずです』と言われまして、パワーポイントを使ったりしながら細かい説明をしていきました」(中野さん)。
ただし原監督が目指したのは、自分たちで考えさせる練習。そのため、中野さんはゼロから100までをすべて教えることはなかったそうです。
「例えば、『こういう腕振りをするには、どこの筋肉をつければいいと思う?』と選手に聞きます。そして筋肉図を渡して、自分たちで探させるんです。それをグループごとにディスカッションさせて、何回も考えさせるんです。そして、その筋肉をつけるためのトレーニングも、『どういうふうに負荷をかけたらいい? どうやってダンベルをもったらいい?』と同じことを繰り返します。ひとつのストレッチと筋力トレーニングを教えるのに、普通なら5分で終わるところを1時間半から2時間もかけるんです(笑)」
元主務が語る3連覇のすごさ
中野さんのトレーニングは、それまでの青学大の常識を覆すものでした。そのため、少なからず反感を持った学生もいたそうです。そこで「中野さんのやっていることはチームを強くするための方法論だから、がんばっていこう!」と、仲介役を担ったのが主務である高木さんでした。
ちなみに主務とは、監督と選手の間に入って、監督が言いたいことを選手に伝えたり、一般的なマネージャーの仕事(練習の準備など)も行うチームの〝何でも屋〟です。彼が監督、選手、そしてフィジカルトレーナーである中野さんの架け橋となったことで、チームは初優勝へ向けて進み始めました。
「僕らが4年生になった4月に中野さんが来て、実質9ヶ月間。非常に短期間でしたけど、中野さんが青学大とつながらなかったら、99.999%優勝してないんです。中野さんがいなかったら競技人生が終わっていたという選手もいます。ただ、浸透させていくという意味では、僕を含めたマネージャー陣が大きな役割を果たしたと思います」(高木さん)
主務として、チームの箱根駅伝初優勝に貢献した高木聖也さん
その後はトントン拍子にチームは成長。前々回(2015年)の箱根駅伝で史上最速タイムで初優勝を果たし、今回の箱根駅伝で3連覇を達成しました。卒業してから2年近くが経つ高木さんは、この〝3連覇〟という事実をどう感じているのでしょうか。
「とにかく『ヤバい』ですね。3連覇&3冠は本当にすごいです。ただ、僕らの時の総合タイム(10時間49分27秒)が破られてないのは、うれしいですね(笑)。でも僕らがいた時以上にトラックのタイムも上がっていますし、フォームもすごく良くなってる。出るべくして出た結果なのかなと思います」(高木さん)
チームを3年間見てきた中野さんは、「『3冠』というのをずっと言ってきて、取りたいと思うとプレッシャーで取れなくなるのは分かっていました。ずっと弊社のトレーナーたちが4人態勢で全体を見ていますけど、これほどメンタルのサポートをした年は無かったですね。最初の2年間はフィジカルの強化が中心。今回はどうストレスを軽減させるか、どう緊張を和らげるか、メンタル的なサポートが1番多かった年です」と、今回のチームを振り返ります。
中には、トレーニングの時間を割いてまで〝カウンセリング〟に費やした選手もいるそうです。何がダメなのか、どうしてほしいか、監督に言えないことをすべて吐き出させる。こうしたメンタルサポートも行うことで、文字通り心身ともに史上最強軍団を作り上げてきました。
ちなみに、今でこそ青学大で信頼を得た中野さんですが、最初の1年間は合宿への帯同が出来ない時もあったそうです。「まだ何も結果を出してないトレーナーの要望ですから、通らないのは当たり前です」(中野さん)。しかし1年間で箱根駅伝初優勝という〝結果〟を出し、2年目以降はとてもやりやすい環境になっていきました。
「青トレ」の実態とは
2人の貴重なお話に、全員が真剣に耳を傾けています
話は「青トレ」ついて言及されていきます。高木さんは青トレについて、「確かに最初の数カ月でメニューはガラッと変わりましたが、青トレの良いところは〝当たり前〟のことを全部変えることなんです。